取材レポート「日本から世界へ~アイウェア型ウェアラブルデバイス『Telepathy walker』の挑戦~」

地域ICT推進協議会(COPLI)主催セミナー

「日本から世界へ~アイウェア型ウェアラブルデバイスTelepathy walker』の挑戦~」

 

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日時:平成28年9月1日(木)18:00~19:15分

会場:神戸市勤労会館

 

■講演者:鈴木健一氏(株式会社テレパシージャパン代表取締役) 

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1971年、静岡県生まれ。現在45歳。
10歳でコンピューターエンジニアになることを決心し、20歳でモバイル・コンピューターの開発・設計者となり、以後20年以上、NEC、富士通、三洋電機、台湾FIC、ソーテック、ウィストロン、ブラザー等、大手電機メーカーでさまざまなプロジェクトに参画する。

30歳で独立し、技術コンサル会社スリーディアイ株式会社を設立。40歳の時、大学等での研究業務に就く。そして2013年4月、CTOとしてテレパシーに参加。
2014年よりテレパシージャパン代表取締役に就任し、最新のウェアラブルデバイス「テレパシージャンパー」を生み出す。

ウェアラブルデバイスを通じて「人の体験性」を新たなコミュニケーションスタイルとして提案し、100年先の未来に繋がるアイデアから、人とコンピューティングの境界線に変化と世界の前進を創りつづける。

電子製品のみならず、人間工学およびマーケティング・ブランディング・事業戦略にも造詣が深い。

 

 

 テレパシージャパンは20156月、アイウェア型ウェアラブルデバイス「Telepathy Jumper」を発売しました。メガネと併用できる、小型で軽量なこのデバイスは、屋外で使え、操作性もシンプルです。それを活かし、製造、流通、建設、不動産、設備管理、保守など、さまざまな現場で遠隔作業支援のソリューションとして導入されています。

 

 そして今年1月、新製品である次世代のアイウェア型ウェアラブルデバイス「Telepathy Walker」が発表されました。3月にKickstarter(キックスターター)およびkibidango(きびだんご)にて先行予約を開始した「Telepathy Walker」は、クラウドファンディングに成功し、遠隔作業支援だけでなく、遊園地や娯楽施設等でも使われ始めています。

 

 本日はテレパシージャパン代表取締役である鈴木健一氏をお迎えし、プロジェクトの発足から発売までの経緯、ウェアラブルデバイスの目指すもの、また未来のコミュニケーションついてお話ししていただきます。

 

 「日本から世界へ~アイウェア型ウェアラブルデバイス

                                 『Telepathy walker』の挑戦~」

 

 わたしのパソコン人生が始まったのは1981年、まだ10歳の時です。世の中はパソコンブームで、当時マイコンと呼ばれていたそれは、カセットテープがついており、そこにプログラミングをしていく様式でした。MZ2000という素晴らしい機械を手に入れて、わたしは夢中になりました。

 

 同時に映画TRON(1982年)が公開され、コンピューターグラフィックスやコンピューターと人間がどう関わって生きていくのか、10歳ながらに原体験を得ます。

 そして1991年、20歳の時にゲートウェイを設計しました。確かウィンドウズ95が発売される前後のことです。この頃、ノートパソコンを使い、カフェで仕事をする人が出現しました。

 パソコンブームから10年、子どもの頃に夢見た人生をわたしは遂に歩み始めたのです。

 

 それから20年以上、パソコンの設計をしてきました。その間、その形はどんどん変わっていきます。1981年にはカセットテープで読み書きをしていたのに、今ではずいぶん薄くなったものです。また、バッテリーの持ちも劇的に長くなりました。1995年頃には、2時間持てばいい方だったのが、6時間、7時間、8時間と伸びていき、今では一日中充電しなくてもいいくらいです。

 それにより今日では働き方も変わりました。パソコンさえあれば、わざわざ会社へ出勤する必要もありません。

 

 今やパソコンはわたしたちの生活になくてはならないデバイスです。しかし25年前はただの玩具だと思われていました。

 ウェアラブルも、今はまだ、なにかの役に立つとはなかなか信じてもらえません。

 しかし、やがてはパソコンや携帯電話と同じく、わたしたちの生活に必要不可欠なものとなるでしょう。そういう世界がすぐそこまできています。

 

Telepathy創業からTelepathy Jumper発売まで

 

 2013年、前CEOの井口尊仁さんと共にTelepathyを創業しました。

 井口さんは天才的な起業家で、過去に頓智ドットでARを用いた「セカイカメラ」というアプリを大ヒットさせています。

 「道端で花を見つけ、それを撮影し、アプリを立ち上げ、コメントを付けてSNSに投稿する。この一連のステップを限りなくゼロにして、もっとシームレスでリアルタイムなものにしたい。そうなればあらたなコミュニケーションが生まれるのではないか」かれがこのプロジェクトを発足したのは、そんな思いからでした。

 「Telepathy Jumper」の原案である「Telepathy One」の開発は、シリコンバレーのベンチャーキャピタルより500万ドルの資金提供を受け始まります。これはアメリカのSXSWSouth by Southwest Interactive)」にて発表され、大きな反響を呼び、開発は2013年末の発売を目指して進められました。

 

 そして、20144月、井口さんがテレパシージャパンの代表を退任。わたしが会社を引き継ぐことになりました。コンセプトからモノづくりへと仕事が前進していったのもこの頃です。

 テレパシーには、日本の有数な企業で鍛錬を積んだエキスパートが揃っています。ですが、誰も見たことがない新しい製品を、新しい会社、新しい工場で作ることは容易ではありません。

 そのため何度も振り出しに戻り、壁を乗り越える必要がありました。シリコンバレーのベンチャーキャピタルからもさらなる増資を受け、協力企業の力を借り、なんとかリリースに漕ぎつけたのは1218日のことでした。

 

 以前のインタビューで井口さんは2014年中の発表を約束していました。なので、わたしたちはどうしてもそれを叶えたかったのです。その実現のためにチーム全体で懸命に頑張りました。それはこれを逃したら年内には報道されない、というギリギリのタイミングでもありました。

 そして20156月「Telepathy Jumper1号機の販売がスタートします。

 

 当初Telepathy Jumper」のコンセプトはメガネ型でした。しかし、先進国では45割の人がメガネをかけていて、メガネの上にメガネを乗せるとなると、これはなかなか難儀です。そこで、必要な時だけ眼の前に装着するウェアラブル端末になりました。

 Telepathy Jumper」は、普段は首にかけておくことができ、連続使用する場合はアタッチメントを使い、眼鏡や頭に装着します。アンドロイドのプラットフォームを使い、高解像度の小型ディスプレイの他、カメラ、マイク、各種センサー等、コンピューターのすべての機能、回路を搭載しました。

 操作性は改善すべきところがありますが、基本的にはアンドロイドと同じです。これは工事現場のヘルメットに装着する等して、さまざまな分野の技術支援に使われています。

 

次世代型ウェアラブルデバイス「Telepathy Walker

 

 今年1月、Telepathyは新製品である次世代のアイウェア型ウェアラブルデバイス「Telepathy Walker」を発表しました。そして3月、Kickstarter(キックスターター)およびkibidango(きびだんご)にてクラウドファンディグをスタート。1ヵ月で1500万の資金を調達し、最初のロッドを作成、630日に出荷しました。これはすべて完売し、現在、新しいロッドを作っています。

 このニュースは国内外たくさんのメディアに取り上げていただきました。

 

 屋外でもくっきりはっきり見える独自ディスプレイ、タッチセンサー操作でより使いやすさを追求したTelepathy Walker

 重さは57グラムと少し重くなりましたが、折り畳み収納でコンパクト、アタッチメント式でメガネに装着することが可能です

 ディスプレイは目のところについていて、位置が把握でき、屋外で利用する歩行者向けのナビゲーションとして優れています。

 

 夏の日差しはおよそ3000カンテラですが、このディスプレイはそれ以上の光を目に入れることができます。スマホでは反射したり、液晶が黒く見える外光の強さですがこれなら真夏の屋外でも問題なく使えるということです。プロモニターにも匹敵する解像度で、一般的なモニターのディスプレイの色領域を超え、商品や空間を鮮やかに再現します。

 

 デモアプリの映像をご覧ください。時計が浮いているでしょう。頭を動かすと、時計も同時に動きます。

 独自のディスプレイ方式により、まるで物体が空間に浮いているようにみえるのです。    また、アプリマーケットもありますし「ポケモンGO」で話題になったARのプログラミングの開発支援もできます。

 

 現実の空間に、コンピューターで情報を付加することにより、ものが見える、これがARの仕組みです。ウェアラブルがあれば、ペッパー等、物体としてのそれを通さなくても、ロボットと会話することができます。

 

視点を交換して作業をスムーズに

 

 Telepathy Walker」を応用し、遠隔作業支援もよりスムーズになりました。20158月より出荷中の「Remote Action」は、導入したその日から使える、遠隔作業支援用スマートグラスのワンパッケージソリューションです。Telepathy Jumper」と同じく、製造、流通、建設、不動産、設備管理、保守など、さまざまな現場で活用されています。

 Telepathy Jumper」は、発電所や浄水場でもテストをしていただきました。使用事例は300ほどで、業界では一番だと思います。

 

 ハイブリットカーや水素車は民間の工場ではメンテナンスが難しいうえ、作業者が研修を受けることもなかなかままなりません。しかしRemote Actionを使えば、センターと作業者が視点を交換しつつ、スムーズなメンテナンスができます。

 データーセンターでも同様に、トレーニングをしながらのスムーズな作業が可能です。遠隔地から専門家をわざわざ呼び寄せる必要はありません。

 

 電化製品は新機種が出ると、どんどん使い方がわからなくなります。また、エアコンのような季節用品は、夏や冬になると急に工事が増えます。そんな時、大いに役立つのが「Remote Action」です。空間を共有することで、より効率的な作業が実現しました。

 

 仕事だけではありません。たとえばビデオ通話で、ショッピングや食事や旅行等、体験をリアルタイムで交換したり、料理教室でも、家にいながら空間を共有し、先生の手の動きに合わせて同じものを作ることができます。本ではタイミングがわかりにくくても、ウェアラブルを使えば簡単です。

 また「あれ」とか「それ」という言葉をわたしたちはよく使いますが、携帯電話やテレビ電話ではなかなか伝わりません。でも、視点を交換すればそれもスムーズです。そこにこのデバイスの価値があります。

 

Telepathy Walker」を活用し「AR遊園地」を実現する花やしきの試み

  

 160年の歴史がある浅草花やしきでは「Telepathy Walker」を導入し、目の前に忍者やお化け屋敷が現れるAR遊園地」を実現しようとしています。古い遊園地だが新しいことをやりたいと、花やしきはこのウェアラブルを導入しました。

 

 今後も続々と「Telepathy Walker」を活用したサービスを提供していく予定ですが、まずは言語ということで、日本語の他、英語・中国語・韓国語で案内が表示されるサービスを始めました。装着すれば、海外からの旅行者もスムーズに園内を散策できます。 園内に設置されたポイントを探せば、誰もが最先端デバイスを用いたエンターテインメントを楽しむことができるのです。

 

なぞともCafe×「Telepathy Walker」でリアル宝探し

 

 なぞともCafeは若者に人気の「リアル脱出ゲーム」が出来るカフェで、全国にあります。昔は巨大迷路を作り、実際に歩いて出口を探しましたが、今はもっとコンパクトになっていて、ひとつの部屋に入り、謎を解けば出られるという仕組みです。

 

 「なぞとも Cafe 新宿店」では、タカラッシュとジーンとの共同企画で「Telepathy Walker」を使ったリアル宝探しプログラムをスタートしました。

 このアプリケーションは「Telepathy Walker」を装着すると、謎解きのヒントが目の前に現れ、ムービーが流れたり、ARのオブジェクトが出現したりするというものです。それをヒントに10分以内で謎解きをします。

 このプロジェクトはお話をいただき3ヵ月で立ち上がりました。

 

 謎解き施設は面白い事例のひとつです。Telepathy Walkerの活路が、こんなところにあるとは思いませんでした。

 

「ウェアラブルデバイスって何だ?フェスティバル」

 

 今年3月「ウェアラブルデバイスって何だ?フェスティバル」が開催されました。これはウェアラブル先進都市を目指す神戸市が、ウェアラブルデバイスについて広く知ってもらうために、市民に向けて開催したイベントです。

 

 テレパシージャパンは神戸デジタルラボ、フェリシモと共にこのイベントでデモンストレーションをしました。ウェアラブルデバイスを装着し、フェリシモのカラフルゴムブレスレッドキットで手芸をしてもらうというデモでした。

 カラフルゴムブレスレッドキットは、輪ゴムをリリアンのように編むための簡単な機械ですが、ウェアラブルデバイスで視点を交換し、先生の手の動きを真似して、二人羽織のような感じで同じことをすると、その場で本当にするすると編めるので、挑戦した男性がびっくりしていました。

 

 ウェアラブルなら、単にハンズフリーというだけでなく、それ以上の情報を伝達することができます。説明書を読むよりも、ウェアラブルで指示される方がはるかにわかりやすいのです。

 

データ化の外側にあるテクノロジー

 

 40年前、ゼロックスがシリコンバレーに開設したパロアルト研究所で、アラン・ケイ等、当時の秀才たちが今のパソコンのフォーマットを作りました。

 スマホのアイコンをタップすると、プログラムが立ち上がり機能しますが、これもパソコンと同じです。しかし、ウェアラブルはその外側にあるテクノロジーです。

 

 パソコンの登場によって、わたしたちの暮らしは随分よくなりました。しかし、そこで扱われるのは文字、音声、画像、映像、たった4種類のデータです。わたしたちは日々、それらをやり取りして連絡や情報交換をしています。しかし、それだけでは伝わらないものがあります。なぜなら人生は4種類のデータでは出来ていません。

 

 たとえば「おもてなし」のような、データ化して送受信ができないものをインターネットで扱うのは難しいでしょう。ポータビリティがないからです。

 ITが重視される昨今では、データ化できない物事が軽視されているようにも思います。ウェアラブルはデータ化の外側にあるテクノロジー。それを踏まえると、ウェアラブルで伝達可能な物事が思い浮かんでくるのではないでしょうか。

 なにをウェアラブルで伝えるべきなのか、わたしたちは毎日研究しています。

 

 Telepathyのコンセプトは、誰かの体験を離れた場所にいる誰かとリアルに共有することです。今までにない、人とひとつになれるコミュニケーションデバイスをわたしたちは実現したいと考えました。

 

  「スマホじゃダメなんですか?」

 

 ウェアラブル市場は大変期待されています。中長期的には、TVやタブレット以上の規模が見込まれる巨大市場だからです。

 しかし、今のところ期待と現実に大きなギャップがあり、調査会社はスマートグラスの出荷台数を年間億の台数と予想しましたが、実際は5万台です。

 わたしもこうしてお話しを聞いていただいたりして、普及に努めていますが、用途のあぶり出しが難しく、ゆえにマーケットはなかなか伸びません。拡大スピードは、既存大手企業「以外」のプレーヤーのイノベーション次第でしょう。

 

 よくいわれるのは「スマホじゃダメなんですか?」というキラーワードです。これをいわれてしまうと、荷物をまとめて帰るしかありません。使いやすさではスマホに負けますし、値段も高いうえ、まだ玩具の領域をでないからです。

 なので、スマホやパソコンでカバー出来ない分野を開拓する必要があります。

 

 そこに登場した「ポケモンGO」は画期的でした。「ポケモンGO」の良さは歩きながらでないとわかりません。なので大変ウェアラブル向きです。siriAIにも向いているかもしれません。スマホでは扱えない領域の、いろいろな未来がウェアラブルには詰まっています。

 

ウェアラブルが創る素晴らしい未来

 

 BBC が読者の意見と未来学者のコメントをもとに、100 年後の世界を予想しました。

 それはたとえば完全な海洋養殖が可能になっているとか、軌道エレベーターでロケットを飛ばさずとも宇宙旅行が出来るとか、そんな素晴らしい未来です。

 その2番目に思考伝達装置の登場がありました。テレパシー装置が開発され、他の人への思考伝達やネットへの思考の保存等が可能になるというのです。まさに今わたしたちが作っているデバイスですね。

 

 とはいえ100年後の未来にわたしたちはいません。わたしたちの子どももいないでしょう。つまり縁もゆかりもない世界です。

 しかし、実際には100年かからないかもしれない。オリンピックの年にはもう、実用化されているかもしれません。

 ウェアラブルデバイスでさまざまな国の人と会話し、どこへでも気兼ねなく旅行へ行ける、そんな未来がそこまできています。

 

体験を分かち合うということ

 

 テクノロジーは素晴らしいがやヴィジョンはそうでもないとか、逆にヴィジョンは素晴らしいがテクノロジーはそうでもない、ICTの世界では、そういうことがままあります。しかし、これは両輪でなければなりません。

 

 この仕事を引き受けるにあたり、わたしには成し遂げなければならないことがありました。それは心にいつも掲げておくキーワードを発明することです。そして発明したのが「体験を分かち合う」というキーワード。その言葉に支えられ、わたしは仕事を続けてきました。

 

 ご存知の通り、これまでの経緯は波乱万丈でした。よく人に根気があると驚かれたものです。でも、そんなことはありません。井口さんと共に1年弱開発をして、それをリアリティに結び付けていく段階で、無力感を覚える瞬間が幾度となくありました。

 一から何かを創造することはとても大変です。すごく原始的なことを扱わなければならなかったり、理想に近づけなくて何度も打ちひしがれたものです。でも、それを乗り越えてやってきました。

 

 「体験」とはなんでしょう。同じ空間にいても、わたしがあなたをみるという体験と、あなたがわたしをみるという体験は違います。20人いれば、それぞれが別の体験をしている。わたしたちは本当に人と何かを分かち合っているでしょうか。怪しい限りだと思います。

 

 「分かち合う」とは、お互いをよく知ることです。しかし、これがなかなか難しい。しかし、ウェアラブルを使えば、それぞれの体験、心の動きまでもお互いに交換することができるかもしれません。わたしたちはそれを目指しています。

 そうして体験を分かち合うことができれば、単に仕事の効率がよくなるとか、勘やセンスを学習するということを超え、ウェアラブルは人間になくてはならないものになるでしょう。

鈴木 健一(すずき けんいち)