【第2回山田昭記念講演会】 COPLIセミナー「メイカーズのエコシステム」(2017/5/12開催)レポートを掲載しました

2017年度COPLI総会 【第2回山田昭記念講演会】 COPLIセミナー「メイカーズのエコシステム」

 

【日時】 平成29年5月12日(木)16:45~
【場所】 ホテルモントレ神戸 2階楼明館〔神戸市中央区下山手通2-11-13〕
【演題】「メイカーズのエコシステム」

 

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高須 正和 氏

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。

チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部などで活動をしています。

日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。

日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります。

現在シンガポール在住。MakerFaire 深圳(中国)、MakerFaire シンガポールの実行委員。ニコ技シンセン深圳観察会。


著書「メイカーズのエコシステム」など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264

 

「メイカーズムーブメント」という言葉が聞かれるようなって久しいですが、この中身について実感を持って語れる人はまだまだ多くはないのではないでしょうか?
 ただ、こういった新たな「うねり」は、日本の外で大きく動き出しています。特に、このうねりの中心として、中国の深圳は「赤いシリコンバレー」とも呼ばれるほどに日々進化しています。
 このことを誰よりも間近で目撃し、自身も主体的に関わっておられる日本人がチームラボMakeの発起人であり、「ニコ技シンセン深圳観察会」を主催されている高須正和さんです。
今回の記念講演では、高須さんに今深圳を中心に起こっている動きを概説いただき、世界で唯一無二の「メイカーズのエコシステム」について学びを深める機会としたいと思います。
また、日本の地方都市である神戸から、このおおきな「うねり」にどう向き合うかについても、共に考える機会とできればと思っております。

 

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メイカーズのエコシステム


 メイカーズのエコシステムは新しい発明の形です。わたしはアジアのさまざまな国で、その新しい発明の形と、それを生み出す深圳という街について講演をしています。中国人を相手に日本人のわたしが、深圳の面白さを語るのは奇妙なことでしょう。しかし、今日お話しすることは、イノベーションに興味のある方はもちろん、中国の方々にとっても刺激的で驚くべき内容だと思います。

 

 わたしはシンガポール在住で、メイカーフェアのシンガポール版、深圳版の運営委員です。メイカーフェアは世界中の人が発明品を持ち寄り、それを披露するイベントで、運営を手伝う傍ら、わたしも作品のプレゼンをしています。世界でいちばんアジアのメイカーフェアに参加していて、このイベントに誰よりも関わりの深い人間かもしれません。

 

 

メイカームーブメントとはなにか


 2005年頃、イノベーションを生み出す新しい仕組みがソフトウェアの世界で生まれました。そして、2012年頃、ハードウェアにもこれが波及するようになります。これがメイカームーブメントと呼ばれています。

 

 今年43歳になるわたしが大学を出て仕事を始めた1990年代の末は、どんなウェブサイトを作るにも1000万~2000万はかかりました。複数のサーバーとソフトウェア、そしてオラクルなどのデータベースが必要で、それをすべて揃えるとそれくらいの金額になったのです。

 

 しかし、2005年頃から、APACHEやLinuxなどオープンソースのソフトウェアが普及しつつありました。これを使えば無料で、誰でも開発に参加できます。品質に差があるなら、お金がある会社は有料のソフトを使い、そうでない会社は無料のものを使うことになるでしょう。でも、今はアップルやグーグルもオープンソースのソフトウェアを使い、ハードウェアのクラウドサービスも生まれました。

 おかげでとりあえず数十万円あればウェブサービスやSNSを作れるようになりました。あとは自分たちの開発を支えるコストさえあれば、将来的に世界で通用するサービスを生み出すことができます。誰でもやろうと思えばできるという意味で、サービスの開発が民主化されたと言えるでしょう。

 

 アンケートで「ほしい」と言われるようなものは0.5歩先の未来です。外でパソコンなんか使わない、音楽なんて聞かないと昔は皆が思っていました。でもそれは今では当たり前のこと。ゴールは作りながら考える、それが新しいイノベーションの在り方なのです。


 TwitterやFacebook、Instagram、LINEなど、大ヒットしたサービスは皆、大規模サービスの開発が民主化された2005年以降にリリースされています。とりあえずリリースして、ユーザーがついてから展開を考えるというようにソフトウェアのビジネスは変わったのです。

 

 メイカーフェアの主催者Dale Doughertyは「いちばんいいイノベーションは趣味やホビーの世界で本能のまま遊べることだ」といいました。また、伊藤穣一は「計画を立てるのではなく、すぐ自分たちでやってゴールはやりながら考えよう」といっています。

 


世に出してみないとわからないものが世界をアップデートする

 

 アメリカのベンチャー企業「Yコンビネータ」は、株の6%を買う代わりに、とりあえず200万くらい支給して、アイデアのある人に開発をしてもらうという事業を始めました。まだないサービスにお金を払う事業です。条件はシリコンバレーに引っ越して、週に一回、創業者であるポール・グレアムと一緒に食事をすること。開発者はだいたい3~5人くらいですが、その200万円で自分のアイデアを形にしろというわけです。

 社名の由来はプログラミング言語で使う型無しラムダ計算においてよく知られた不動点コンビネータの名前。プログラミング用語を会社名にしていることが、エンジニア出身の起業家を相手にしたビジネスであることを示しています。

 

 Yコンビネータの出資により、これまでにAirbnb、Dropbox、Docker、Bump、herokuなどがサービスをリリースし、1000を超える会社がスタートアップしました。時価総額は65億円を超えます。

 

 さて、Yコンビネータは将来大きくなる会社になぜ出資できたのでしょうか。理由はいたってシンプルで、それは創設者のポール・グレアムが伝説的な天才プログラマーだったからです。

「会社にビジネスマンはいらない。とにかく全員プログラマーベースで会話した方が世の中はずっとよくなる」とかれは常々いっていました。

 

 かれがプログラマーとして活躍していたのは1995-1998年頃。当時ソフトウェアはインターネットの向こう側でなく、すべてウィンドウズやマッキントッシュのなかで動くものでした。

 その頃からかれは「いいプログラマーだけを集めて、インターネットの向こう側で動くソフトを作れば他のやつに勝てる」といっていました。そして、Viawebという今で言う楽天市場のようなインターネットショップを手軽に作れるサービスをリリースしたのです。

 帳票からなにからすべてブラウザの向こう側へ出てくるこのサービスは、成功してヤフーに買収され、アメリカのヤフーショッピングのもとになりました。

 

 その後、会社を売り払ったかれは、エンジニアのアイデアにエンジニアが投資する会社「Yコンビネータ」を作ります。

 

「世に出してみないとわからないものが世界をアップデートする。エンジニアが考え、作って売るのが新しいイノベーションの形だ」と考えたのです。

「ともかくプロトタイプを作って持ってこい。プログラマーとしてまともだとわかれば出資をしてやろう。そのあとどうなるかは6か月後、サービスがリリースされたときに世間が決めることだ」という姿勢でした。

 

 さて、皆さんがスマホでいちばん長い時間を費やしているアプリはなんですか。Twitter?Facebook?Instagram?いずれにせよ、出た瞬間はなにがおもしろいのかよくわからなかったのではないでしょうか。また、なにかの役に立つからそれらを使っているわけではないでしょう。

 しかし、TwitterもFacebookもInstagramもLINEも大ヒットしました。  
 

 ところで、わたしの母はまだスマホを持っていません。やったことのない人にLINEスタンプの便利さを説明するのはとても難しいことです。これだけウェブサービスやソフトウェアについて話しながら、わたしはまだ母にスマホの良さを伝えきれていないのです。今わたしたちを面白がらせているものが、いかに言葉で伝えるのが難しいかの一つの例だと思っています。

 

 
シリコンバレーと深圳のエコシステム
 

 昔は会社を作りたければ、創業資金を自分で調達する必要がありました。アイデアを売りたければ、たくさんの人を説得し、偉い人の判子を貰う必要がありました。でも今は創業資金をアクセラレータやクラウンドファンディングで募ることができます。また、ソフトウェアをリリースすれば、ユーザーがだんだんついてきて、それが100万人に達すれば実績になります。そうしてスタートアップやメイカームーブメントが起きたのです。

 

 ハードウェアについては正直なところどうなるのかわかりませんが、製品開発はこれまでより短期間、低コストで出来るようになりました。2012年にはハードウェア専門でYコンビネータのようなサービスを展開する会社HAXが登場します。本拠地はサンフランシスコですが、ラボラトリーは中国の深?。アイデアを出した人がそこで111日間合宿をし、キックスターターに出す一歩手前まで完成させるのがノルマです。半年で14組のアイデアを集め、株の9%と引き換えに10万ドルを出資しましたが、今のところクラウドファンディングに失敗したプロジェクトはひとつもありません。

 

 メイクブロックはレゴのロボット版のような玩具を作る会社で、2013年に5人でスタートし、現在は従業員数440人の世界を代表する企業になりました。

 リトルビッツは電子ブロックのような子ども向けのプログラミング学習玩具で、MITの学生が教授から出資を受けて作りました。今はビックカメラでも売っていますが、2011年に創業し、わずか4年で40億円の価値がある企業に成長しています。

 最近は創業してから上場までの時間がとても早く、素人の成功も珍しいことではありません。

 

 昔は大学やプロの研究機関に属さないときちんとしたレビューも受けられず、調査もできませんでした。そうして研究機関が発明したものを企業が製品化し、広告代理店が宣伝して、プロのセールスマンが売っていたのです。製品は大きな組織が承認の判子を集めながら作るもので、わかりやすく絶対的な機能と数値の評価が必要でした。しかし、今は思いつきでインターネットに永久機関のような不可能な発明品を公開したら頭のいい人に突っ込んで貰えますし、玩具みたいなアイデア商品にクラウドファンディングで出資してくれる好事家がいます。外に向けて合理的な説明するのは難しいが、内輪ではうける、そんな製品を作ることができる、それがメイカームーブメントです。

 そして、いろいろなアイデアが集まるのがシリコンバレーで、それをチープに製造して売れるのが深圳。開発者はシリコンバレーで出資を募り、深圳で合宿して製品を作ります。それが最近のトレンドとなっています。

 

 機能や数値をきちんと積み上げ製品化するものとアイデア一発勝負みたいなもの、世の中には2種類の製品があります。このふたつのイノベーションをごっちゃにして話すと、話が進まなくなります。ですからどういうコンシューマーを相手にしているか、自分はどちらへ進もうとしているのか、今しているのはどちらのタイプの話しなのかを把握し、ふたつを分けて考えることがとても重要です。

 


メイカーズの聖地「深圳」


 世界でいちばん早くそして安く製品を製造できるのが深圳です。世界でいちばん大きな電気街があり、量産用の部品を売るビルがたくさんあるからです。その規模は秋葉原の20~30倍で、世界中のあらゆるものが分解され部品になって売られています。

 

 iPhoneの中身を完全に分解して回路図に起こしている本もあります。どういうパーツがどのような回路図で構成されているか、よく壊れる部分がどこで、部品のひとつひとつをどう使っているかまですべて書いてあり、値段は800円くらいです。偽iPhoneはおそらくこの本を見て作ったのでしょう。偽物のアップルウォッチも本物が出る4か月前には売っていました。

 

 コピー品でなく、シリコンバレーからオリジナルのアイデアを持って行き深圳でそれを製品化すれば、それはイノベーションになるのです。

 

 90年代以降、マッキントッシュが出現してDTPが出来るようになり、同人市場は巨大化しました。DTMによって、ラップトップ上で誰でも音楽が作れるようになり、同人音楽というジャンルも生まれました。設計と製造の手段が容易になった今、同人ハードウェアの誕生も十分期待できるのではないでしょうか。メイカームーブメントはそれを形にしようとしています。

 

 2008年に創業し、現在は従業員数200人を超え、アメリカと台湾に拠点を持つ中国の会社Seeedは、同人デザインを提唱しています。SNSでマーケティングし、クラウドファンディングで種銭を集め、オープンソースのテクノロジーとメイカーのコミュニティ、無料のツールを使い、深?のマニュファクチャリングでハードウェアを作る、人と違ったものが欲しい人向けのそういう同人デザインがこの世に生まれるのではないかといっているのです。

 

 Seeedに設計データを送るとそれを製造して郵送してくれますが、基本的にオープンソースのものしか受注しないシステムになっていて、機密を守る必要がありません。また、Seeedは携帯電話の部品とセンサーをセットにして販売しています。パチモノの中身をセットで売ると製品になり、そして世界でパチモノが作られるようになるのです。

 

 

オープン化した時代とコピー


 東京大学の暦本純一教授は発明に対して天使度と悪魔度という解釈をします。黒澤明監督のモットーである「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」という言葉からきているそうですが、どういうことかというと、アイデアが優れた要素を天使度が高い、実装が優れた要素を悪魔度が高いという解釈です。

 

 たとえばFIDGET CUBEは箱の全面にスイッチがついていて、手持無沙汰の時にスイッチを押す無限プチプチのような玩具。発想は素晴らしいものの、作るのも簡単。つまり天使度は高いが悪魔度が低い発明です。一方安定性の高いドローンは誰でも思いつくアイデアですが、簡単には作れません。つまり悪魔度が高いわけです。キックスターターには天使度の高いものがよく出ていて、世に出る前に中国人にパクられます。

 

 さて、当の中国人発明家はこれをどう思っているのでしょうか。

 

 Robin Wuは、スティーブ・ジョブズがiPodを発表したわずか60日後にインテルのCPUを使ってパチモノを作り販売しました。それゆえ山寨王(パチモノ王)と呼ばれています。しかし、IoTマグやGPS付ジャケットなど、コピー品だけでなくさまざまな発明をしている立派な起業家です。かれのStick PCはアマゾンでも販売されています。

 「90日あればだいたいのものはコピーされるだろう」とRobin Wuはいいます。

 「見れば作れるようなものは大当たりしたらどんどんコピーされて値段が下がっていく」 「だから最初に大量生産して売り抜け、次の発明を始めるのが自分のやり方だ」「後追いは競争になるが、最初は競争がない」これがかれの持論です。

 

 電気スケートボード「STARY」は、電気街でコピー品がたくさん売られる人気商品です。開発者である上海の発明家Chen Rexにそのことを尋ねると「STARYは900ドルくらいで偽物は100~150ドルくらいだが、良い部品を使い、本物のスケートボードのように電気の部分は隠して差別化を図っている」「高くてもいいものを作っていれば生き残れるだろう」とのことでした。パチモノが出ているからといってイノベーションが止まることはありません。

 


「最適な場所」に国境も地元意識もない


 シリコンバレーや深圳は完全に移民の街で、その土地に生まれた人は誰もいません。やりたいことがあって集まってきた人たちのエクストリームな場所。それが世界を新しい方向へまわしていくのでしょう。

 

 急成長を遂げた深圳は、広さも人口とざっくり東京と同じくらいの街です。近隣の東莞、沸山などを合わせ「珠江デルタ」と呼ばれる4000万人規模の世界の工場を抱えています。30年前は本当になにもない漁村でしたが、今では高層ビルが立ち並ぶ一大都市になりました。

 

 深圳がなにもない漁村だった1985年、中国に職業や貯金、会社や起業という概念はありませんでした。死ぬまで共産党がめんどうを見てくれるはずだったからです。そこは完全に我々と別のルールで動いていました。

 しかし、改革開放が始まり、計画経済から自由経済になって、お金や就職という概念が生まれます。そして、工夫して稼ごうというのが新たな中国のルールになったのです。

 国境が解放され、香港からマネージメントや経営、契約というノウハウが入り、同時に高度成長が起きて、広東省では年間3万円ずつ給料が上がっていきました。このときの深?は明治維新と黒船の来航と高度成長が一気に起きたみたいな状況でした。

 

 日本が200年くらいかけてくぐり抜けてきたそれを、一気に体験するとその後の30年はどうなるのでしょうか。まず、海が埋め立てられて新しい土地ができます。つまり地形が変わるのです。そしてそこにビルが建ちます。

 わたしが住むシンガポールも成長が早く、まるでリアル「シムシティ」のようですが、深圳はそれよりさらに早く、リアル「ポピュラス」のような街です。現在も成長し続けるこの街の人口ピラミッドは特殊で、1200万人の大都市でありながら高齢化率はわずか2%。街にはここ数年以内に引っ越してきた若い人ばかり。2013年には4本しかなかった地下鉄が、2016年には11本に増えました。年に3本ずつ増えている計算です。

 

 昨日のイノベーションが今日はありふれたものになる深圳。そこにラボを構えるアクセラレータは「深圳での一週間はシリコンバレーでの一か月」だといいます。

 

 

テクノロジーで社会が変わる加速世界「深圳」

 

 さて、中国では現金にあまり信用がありません。みんなモバイルマネーの方を信用していて、屋台やストリートミュージシャンでさえQRコードでお金の支払いを求めます。

 また、シェアサイクルが多く、街のそこかしこに自転車が乗り捨てられています。シェアサイクルにはQRコードがついていて、それをスマホで撮影すると鍵が外れ課金され始める仕組みです。電気バイクよりも便利なので、今はこのようなシュアサイクルがよく利用されています。深?くらい新しい街だと自転車がTCP/IPに乗るわけです。シュアサイクルは2015年10月に登場し、それから同業他社が参入し、10か月後には北京、上海などで10万台にも増えました。

 

 日本でもNTTドコモがシェアサイクルの実験導入をしていますが、これは区ごとにステーションを管理していて、自転車を返さなければなりません。2020年までに大規模導入を実現しようとしていますが、現在は東京の5つの区だけです。

 

 アメリカの法律学者ローレンス・レッシグは、人間の行動をコントロールするのは規範、法律、アーキテクチャ、損得の4つしかないといっています。しかし、中国は今ものすごい勢いでルールが変わっていて、規範も法律も信用できません。でもテクノロジーはあって、損得に敏感です。そのふたつで世界をまわそうとしているので、今のようになっているのでしょう。ドローンやシェアサイクルもそうですが、法律の前に商品やサービスが出てきて法律がそれに追いつかない状況なのです。

 

 アリババがリリースした信用管理システムはチートがされづらく、お金の使い方でさまざまなサービスが受けられる仕組みです。モバイル決済を管理し、なににお金を使ったかがすべてアリババにトラックされます。結果、通販でバックレたり、返品をしないとか、ちゃんと借りたものを返すと、信用が積み重なってバッテリーをただで借りられたり、シンガポールの観光ビザが取りやすくなったり、さらに信用度が高くなれば、お金の使い方がきれいな善男善女だけの出会い系サイトに入ることができます。人間の信用や宗教や共同体もTCP/IPとテクノロジーに乗るわけです。

 

 

Hardware is Hard


 中国でハードを作る人は「Hardware is Hard」だといいます。ソフトウェアは数人で作れますが、ハードウェアはそうはいかないからです。マニュアル作成や箱詰めや検品など、ハードウェアは多くの人の手を必要とします。すべてを取りまとめるのは容易ではありません。

 

 アッシュクラウドでは、利益率やロス、発注数をコンピュータが管理し、実際の箱詰めは人間がやっています。計画とマネージメント、進捗管理はコンピュータ、物理的に手を動かすのは人間です。

 

 皆インダストリアル4.0になるとブルーワーカーが減り、ホワイトワーカーが残ると思っていますが、実際はたぶん逆でしょう。人間がやるブルーワークをロボットがやるとすごく大変で、人間が書ける程度のエクセルはコンピュータの方がうまく書けるからです。管理職が全部ロボットで労働者が人間という世界。深圳にいるとそんな未来が見えます。

 

 中国で会社を経営する藤岡さんは、なるべく深?に近い値段と日本に近い品質で少ない数を作るというビビットなビジネスをしています。取り扱うのはチェーンや店舗の専用端末。イオンのスマホや30周年記念タブレット、日本交通のドライブレコーダーやテレビ端末などです。

 かつてはレストランや居酒屋のメニューに専用のハードウェアが用いられるのは珍しいことでした。しかし、今はそうではありません。皆さんがそれを見る機会も増えたのではないでしょうか。実はそれを支えているのがこの会社です。

 品質を維持するために、かれは工夫を欠かしません。欠品を出さないのはどの国でも当たり前ですが、日本向けの製品では髪の毛1本でもクレームに繋がるからです。

 

 かれの工場で働くのはすべて中国人。中国に「損して得を取る」という文化はありません。従業員といい関係を保つには、最初にメリットを提示し、ウィンウィンの関係を築くことが大切だと仰っていました。

 

 ちなみに2012年のデータではキックスターターで資金を募ったプロジェクトの8割が頓挫し、出荷できない状況でした。2012年から2014年まで、わたしも3000ドルくらい投資しましたが、状況は変わらず、まだ5万円分くらいしか商品が届いていません。

 世間にないものを作るのがスタートアップなので、そもそもまともに見積もれるわけがないのです。こればかりはやってみなければわかりません。

 

 たとえばOTTOはキックスターターでいちばんお金が集まらないプロジェクトでした。しかし、1年後には他のプロジェクトで成果を得て、220万ドルの資金調達に成功しています。失敗したからといってそれで終わりではありません。また挑戦すればいいのです。OTTOなどは早めに失敗してむしろラッキーだったといえるでしょう。

 

 メイカームーブメントから学べるのは、手を動かして作ってみて、形にして売ってみる、そして他人からのフィードバックを受ける、それをなるべくたくさん繰り返すことです。そうして世界は変わっていくのだと思います。

 

高須正和

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