COPLIでは2019年5月17日に開催された総会に合わせ、これからの「公・民・学によるまちづくり」を考える上での基点となる、
アーバンデザインセンター(通称:UDC)について特別セミナーを開催致しました。
講師には、UDCイニシアチブ理事の信時正人氏と、
神戸大学准教授であり、UDC078センター長を務める藤井信忠氏をお迎えし、
アーバンデザインセンターの在り様と、神戸での今後の展開や活動について、
会場の皆さまとの質疑も合わせながら考えていく場とさせていただきました。
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日 時 :2019年5月17日 16:45~
会 場 :生田神社会館 4階「蓬莱の間」
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アーバンデザインセンターの目指す
「公・民・学によるまちづくり」
信時 正人(のぶとき まさと)氏
株式会社エックス都市研究所 理事、(一社)UDCイニシアチブ理事 東京大学まちづくり大学院非常勤講師 神戸大学客員教授、
横浜国立大学客員教授他 和歌山県出身。
東京大学工学部都市工学科卒。
三菱商事株式会社(情報産業・事業開発等)、財団法人2005年日本国際博覧会協会(政府出展企画・催事室長(日本館の企画と運営、JAPANウイーク等政府主催催事担当))、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授(UDCK設立し初代事務局総長)を経て、2007年4月横浜市入庁。
都市経営局都市経営戦略担当理事、温暖化対策統括本部長、環境未来都市推進担当理事(横浜スマートシティープロジェクトや環境未来都市事業推進)を経て、2016年4月より現職。
環境省(カーボンオフセットのあり方検討会等)国交省(不動産における「環境」の価値を考える研究会等)などの委員を歴任。
横浜でもUDCYやUDCSEA(ヨコハマ海洋環境未来都市研究会代表)の立ち上げに関わる。
今後は、公民学の連携をベースとした、新しい産業つくり、海洋オリエンティッドのまちづくりへのアプローチ、エビデンスベーストのまちづくりと都市マネジメントをトライしていく。
『アーバンデザインセンター』とは
藤井先生の前座として『アーバンデザインセンター』とは何ぞやについてお話をさせて頂きます。
そもそも「デザイン」というとモノの色や形についてだけと考えるのは日本人だけで、例えばイタリア人であれば「生活や暮らしそのもの」を意味します。よって『アーバンデザインセンター』とは、都市の景観やハードのデザインをどうこういうことではなく、「都市システムそのものをどうするか、都市のマネジメントをどうするか、都市の問題をどう解決していこうか」という社会システム全般を含んだものとご理解していただきたいです。
本日お集りいただいている皆さまの組織はICTに関わる方の総本山とお聞きしておりますが、都市をこれからどうしていくかについては、今後ICTを抜きにして考えることはできません。とはいえ、都市に関わっている人間はなかなかICTを活用することができていない、と言えると思います。
現在の日本の都市計画には都市計画法という法律がありますが、50年前の法律ですからね。それをパッチワークして使っている感じです。防災、地球温暖化対策など従来の方法では解決できない問題に、これからICTを使ってどう解決していくか、考えていかなければなりません。
さて、神戸にUDC078ができましたが、こちらは全国で19番目に発足したものです。わたくしは一番最初のUDCKの立ち上げをやりました。それまで都市計画というと、国が決めて地方自治体が従属して実施する枠組みが続いてきています。トップから計画が降りてきて、その枠の中で民間企業等が実施していく、それが所謂都市計画というものだったのです。
昨今、「まちの活性化」とはよくいうけれど、本来、街によって、土地によって、全然方策は違うものだと思います。私は横浜市では「環境未来都市」となった際には、『誰もが暮らしたくなる街』『誰もが活力ある街』を目標にして施策を進めました。その際に、少子高齢化と地球温暖化対策は、どの都市も解決しないといけない2大課題でありました。
いままでは日本は全国一律の開発をやってきた感がありますが、これからはどうでしょうか。地方創生の文脈の中ではそれではいけないのではないでしょうか。自律(自分たちの足で歩きながら)・分散(やってることは違う)・協調(お互い連携しながら)による推進が目指すべきイメージなのではないでしょうか。
街づくりには様々なプレイヤーにいますけれども、大きく分けて「公・民・学」があります。公は行政が中心ですが、我々の定義ではNPOも含みます。民は、商業、市民、開発事業社などです。学は、先端の知見を持つ学生、大学、専門家です。これらがマスコラボレーションしていくことが必要です。
UDCは、公・民・学がフラットにコラボレーションする組織です。企画構想をし、種々の連携を推進し、地域の情報ノードになっていくことが目的です。そういった機構をまちの中心につくって、自分たちで自分たちの街について一緒に考えて、行動していくことが重要です。まちづくりは、人・モノ・コトの総合デザインです。ハードだけでなく全産業、全セクターが関わることだということです。
3つの大切なこと
これからの新しい「まちづくり」には3つの大切なことがあります。
まず、1つ目は「自分の地域のことを良く知る、誇りを持つこと」です。デザインの素材として、各種数値的根拠に基づくエビデンスもふくめて、自分たちのことを知っていくことが大切です。
2つ目は、「異分野・異業種の人たちと仲良く話し合い一緒に行動していくこと」です。
それぞれが、野球のポジションについているがごとく、上から下への流れではなくフラットな組織をつくることです。今世の中ではSDGsが叫ばれています。従来の延長線上に未来はありません。地球が持たない、ということです。イノベーションという言葉がありますが、SDGsではトランスフォーメーション(変容・変体)という言葉で表現されます。社会システム全体の変革が重要視されている時、そこへのアプローチも変わってしかるべき、という事です。
3つ目は、「まちづくりやイベントを一回で終わらせられずに継続できるか」です。いかにサスティナブルなデザインにしていくか、経営手法、ガバナンスの変革です。
以上の3つを実現する「特定の地域に拠点をおいて、地域の課題を解決する場、異種異能の人たちの定常化した集合の場」がアーバンデザインセンターと言えるでしょう。
柏の葉アーバンデザインセンターについて
柏の葉アーバンデザインセンター(以下UDCK)は、日本で最初にできた公・民・学が連携して、ビジョンを共有し、推進機関を共同運営するまちづくりの枠組みです。UDCKでは、例えば、設計においては、ガラス張りを多用し、外から中でやってることが良く見るようにし、色んな人がふらっと出入りできるように、自由な雰囲気を醸し出すデザインになっていました。実際に大学院生の発表にふと市民が参加したりしていました。ここは、柏国際キャンパスタウン構想を実現するための中核施設という位置づけになっています。
神戸でもいよいよUDC078が発足し、そちらの展開を楽しみにしています。UDC078の詳しいご紹介は藤井先生からお願いします。
システム情報技術による都市生活のデザイン
~アーバンデザインセンター神戸の紹介~
藤井 信忠(ふじい のぶただ)氏
神戸大学大学院システム情報学研究科・准教授。クロスメディアイベント「078」実行委員長。
アーバンデザインセンター神戸(UDC078)センター長。
学術振興会特別研究員(DC1)、神戸大学工学部助手、東京大学人工物工学研究センター助手、同客員助教授、神戸大学大学院工学研究科准教授を経て,2010年4月より現職。博士(工学)(東京大学)。
自律分散型生産システム、サービス工学、オープンイノベーションなどに関する研究に従事。神戸を起点としたあたらしい都市生活のデザイン手法の構築に取り組んでいる。
都市生活のデザインに関わるようになったきっかけ
最初に少し自己紹介をいたします。
私はずっとアカデミアにいる人間ですが、もともとは機械系の研究者でした。もともと生産システムの研究、自律分散システムや創発的シンセシスを研究をしていました。
そんな研究の最中、ものづくりで使っていたシステムをサービス業でも使えるのではないかと考えるようになりました。例えば、とあるお寿司屋さんチェーンで飲食業の現場革新に携わることがありました。製造業との違い、サービス業における顧客満足の結果はその場で出てしまいます。そういった経験の中で、ものがどれくらい効率的に生産できるかより、ヒトそのものに興味がでてきました。そこから人と人との満足、人と人の関係に注目するようになり、認知科学や経済学にも興味が拡がっていきました。
そうこうしているうちに、興味の対象が人が体験そのものを楽しむイベントのようなものに広がり、2年前から始まったクロスメディア・イベントの078に携わるようになりました。078に関わるうちに「自分はイベントをやっているというよりは、イベントを通じたまちづくりをやっているのだ」という気持ちになってきました。ただ078というイベントの開催だけを追求するだけでは、まちづくりに関わることにならないなと思い、信時さんと交流する中でUDCを通じたまちづくりを進めることになりました。
移り変わる価値観の中で
ここで、ひとびとの感じる「価値」というものについて、これはこれから先の話の中で大変重要なので、少しお時間を割かせてください。私が学生だった時代(90年代)には、高度経済成長期の「いかにして効率的に大量にものを作り分配するか」から、「多様な価値観を持つ消費者をどう満足させるか」にテーマが変わっていきまして、そのための生産システムをどう開発するかが研究テーマでした。しかし今は、消費者が何に価値を感じているのか、一概には捉えられない時代になりました。昔は、例えば若い男性であれば、「車が欲しい」「バイクが欲しい」でしたが、今は車やバイクはいらないなどという声もあります。
わからないニーズに応えていくことは難しい。これからは消費者と一緒に欲しいと感じるものを作っていかないといけません。サービス視点からモノを作らないといけないのです。ICTの分野では、すでに導入済みだと思いますが、アジャイル開発という方法で、プロトタイプからブラッシュアップしていく方法が取られるようになってきました。こうなってくると産業構造別に考えていくことが、境界線が曖昧になってしまって分けて考えていても仕方がなくなってきた。例えば今、農業に代表される第一産業はICT分野にいる方々からみるとフロンティアでしかないですよね。農家さんが単に作物を作って卸すだけでなく、それを加工して販売まで行う、という食のサプライチェーンの改善や6次産業化も進んでいます。
このように考えていくことで「なぜシステム屋がまちづくりに関わっているのか」がお分かりいただけてきたかと思います。当初関係ないように見えていた「まちづくり」と「産業効率化」は実は同じような構造をしているように感じました。まちづくりもシステム情報学の知見から課題を解決していけるのではないか。「限られた環境下で環境を破壊せずなおかつ効率化していくにはどうしたらいいのか」ということを考えると、まちづくりもシステム情報学も同じように考えていくことが可能なのです。
これからの都市生活をデザイン
都市生活をデザインするということは、ハードとソフトの両方やることです。UDC078では、都市生活デザインモデル、都市生態学、地域プロジェクトデザイン、普及ネットワークを事業として据えています。サイバーとフィジカルの両面を含んだ都市デザインの新しい方法論を構築していこうとしています。
1つ目の事業である「都市生活デザインモデル」とは、まちをデザインする際に、サイバー・フィジカルシステムというモデル化を検討していきます。情報の世界だけでなく、情報という仮想空間(サイバー)と現実の都市という物理空間(フィジカル)で生活する人々と結びつけた方法でモデルを検討していきます。もう少し具体的にいうとまちづくりも物理空間だけでなく、都市の情報をセンシングして、それを仮想空間の中で機械学習などを用いて処理をし、それを現実の都市の物理空間にフィードバックしていく、といったことを実現しようとしています。
2つ目の事業は都市生態学です。神戸市で2016年からWorld Data Biz Challengeを始めています。これはどういうものかというと、神戸市の姉妹都市であるバルセロナ市では、街中にセンサーをバラまき、そのデータを収集分析して、都市の生態を明らかにしたり、新しい政策を立案をしたりしています。
またバルセロナ市には、統計データやセンサーデータを分析可視化して、政策提案する専門部署(バルセロナ都市生態学庁、市の外郭団体)があり、UDC078でも同じような働きをしていきたいと考えております。私自身のプロジェクトではありませんが,現在、三宮地下街(さんちか)の中に沢山のセンサーがばらまかれており、ヒトの流れをセンシングでとりながら、その情報を元に人流・気流をコントロールして省エネ化する実証実験を進めています。
3つ目の地域プロジェクトデザインでいうと、2019年度の078は、今年7万人を越える来場者数が訪れました。クロスメディアイベントということで、多ジャンルの人達が同時に集うことでコラボレーションがうまれたり、お互いに刺激を受けて新しい発想が生まれるのではないかと考えています。そしてその生まれたアイデアを普段の日常生活に持ち帰って実現してもらいたいと思っています。そういったイベントで受けた刺激とそれを実践する日常生活をぐるぐる回すことで、神戸にいくと面白いことが産まれる、神戸ならではの価値が生まれてこないかなと思っております。そういった循環を産み出していくためにも、私自身は078は30年は続けたいと思っております。長期的に続けていくことで、価値を定着させていけるのではないかと思うのです。
しかしながら078は1年に1回しか実施されません。ただ刺激を受けて終わりではなく、ここで受けた刺激を社会に実装していく必要があります。そんな078で生まれたアイデアの実装や橋渡しをUDC078が担っていきたい。そう考えています。
UDC078のこれから
最近、様々な企業からご参加頂いているのですが、リビングラボ、あるいはフィーチャーセンターのような場として試験的に活用いただいています。
また、合わせて自律運転社会システム・コンソーシアムを神戸で立ち上げることにしました。その中核をUDC078が担うことで社会実験をスタートしました。単なる自動運転の実験ではなく、都市生活のデザインの一部として自動運転を位置づけ、陸、海、空すべての移動手段を対象としたコンソーシアムになります。個人の目的だけでなく、他の車両や人との協調,社会全体の目的を実現する仕組みづくりについて議論をしていきたいと考えております。
ただ残念ながら神戸大学の中にはあまり自動運転に関する研究者がおらず、そこで、名古屋大の自動運転コミュニティ、神戸出身の森川先生が車両系の研究を熱心にされているため,、森川先生達と協力しながら新しい社会的価値を神戸でつくっていきたいと考えております。
さまざまな繋がることで拡がる世界
私の本職としている大学教員の仕事は研究と教育です。研究というのは、そもそも好きなことです。そこでは、誰もやっていないことをやります。ものづくり、ことづくり、まちづくりへの発展ということで、私自身が楽しくやっています。また教育、これも好きなことです。学生といっしょに研究に取り組むことで、教える過程を通じて自分も教わることになります。
ただ、大学教員とまちづくりを考えると、大学教員の学会関係者、共同研究者中心のコミュニティで閉鎖的でした。実際のまちづくりでは様々な異分野の人と関わるようになって大きく視野が拡がったのです。UDC078の活動はまだはじまったばかりです。そして実際のプレイヤーが足りていない。ここにお集りいただいている「まちづくり」に興味関心の高いCOPLIの皆さんと是非協業したいと考えています。
どうぞよろしくお願いします。
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